桟敷への招待

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「そうまでしてアランを中央へ上らせたいのか? 前にも言ったと思うが、アランは政治に興味はないから誘いには乗らないと思うぞ。それでも構わないのだとしても、こんな小細工をする必要はないと思うが」 「そうか。考えすぎたか」  アルトワ伯爵はそう言うと、ピエールから視線を逸らせて考え込むような表情を浮かべた。 「とにかく、アランと友人になりたいのなら戻って声を掛ければいいではないか。そしてその場で今夜のその夕食会とやらに誘ってみればいい」  何を回りくどいことをこそこそと、と言外に示した表情でピエールは言った。 「うん」  アルトワ伯爵はピエールの言葉を耳に入れながらも自分の考えに没頭している。  呆れた表情を浮かべたピエールは、アルトワ伯爵の背中に手を回して言った。 「とにかく戻るぞ。こんなところにいたら目立ってしまって仕方がない」  ピエールの言葉を受けて周りを見渡したアルトワ伯爵は、遠巻きにこちらを見ている何人もの貴族たちの姿が目に入った。 「わかった」  そう言って二人は桟敷へと戻った。
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