アルトワ伯爵からの招待状

2/9
前へ
/203ページ
次へ
 こそこそと見つからないように庭にある草木をかき分けながら進んでいると、使用人たちの話し声が耳に入ってきた。 「シャイン伯爵のお姿のご立派なこと! うっとりするほどだったわ」 「羨ましい。私も早くその噂のご尊顔を拝観したいものだわ」 「いくら身分を気にせず分け隔てない態度で接するお方だとはいえ、さすがに使用人を妻に迎えるなんてことはないかしら」 「そんなことはあり得ないでしょう。夢見ちゃって」 「どんな卑しい身分の者でも紳士に対するように態度を変えないというじゃない。素敵だわ。しかも有能な官僚のうえに将来有望! 未来の宰相でしょう? 妻の座を狙う女性はご令嬢だけじゃないでしょうね」  そこまではかすかに聞こえていたが、門へ続く道へと進路を変えたサンドリーヌの耳にはそれ以上は届かなかった。 「サンドリーヌ様!」  カミーユが追いながら張り上げる声が聞こえた。  見つからないように生け垣の隙間から近道をしようとして草の間に分け入ったサンドリーヌは、カミーユが追ってこないかを振り返りながら進んでいたため、馬車から降りて自宅の玄関へと向かっている紳士の姿に気がつかなかった。  生け垣を通って出た瞬間、サンドリーヌは歩いてくる紳士とぶつかってしまった。    紳士は背が高く頑丈で、サンドリーヌが胸元に激突しても微動だにせず、反対にサンドリーヌの方が後ろへよろめく格好になった。  紳士は反射的に転びそうになったサンドリーヌの腕を掴んで姿勢を支えてくれた。 「失礼、ミス……」
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加