王太子の書斎にて

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王太子の書斎にて

「今日はたいへん学びを得る日だった。ご教授に感謝する」  王太子の書斎にて、アルトワ伯爵とアランが向かい合って座っていた。 「お力になれたようで安堵いたしました。僕はシャイン伯爵よりも博学多識とは申し上げられませんので」  アランはアルトワ伯爵の満足した表情に胸を撫で下ろした。 「ピエールはこういう話になると説教臭くなる奴だから面倒なんだ。どうせあと数年もすれば宰相としてガミガミ言われることになるんだから、今はまだ勘弁願いたい」  アルトワ伯爵は笑顔で友人の話題を継いだ。 「僕のこの程度の知識と理解でもカンブルラン子爵のお相手として承ることができておりますから、アルトワ伯爵ならばすぐにでもカンブルラン子爵をお導きになるまで理解をお進めになられることと存じます」  アランの堅苦しい物言いが焦れっくなったアルトワ伯爵は、酒の力を借りることにした。 「ベルタン侯爵、難しい話に頭を使うのはもう十分だ。気楽に一杯やろう」  そう言うと戸棚からボトルとグラスを持ってきた。 「恐縮です」  アランはグラスを受け取ると頭を下げた。 「緊張しないでくれたまえ。ベルタン侯爵はピエールの友人だろう? 友の友は、友だ」 「はい。承知致しました」  アランはにっこりと笑顔を見せた。  アランの笑顔を見て心臓が高鳴るのを自覚したアルトワ伯爵は慌てて視線を窓の外へ向けた。  すると裏手の門からこの書斎がある離れの入口へと歩いているピエールの姿が見えた。  アルトワ伯爵は心の中で舌打ちをした。  せっかくベルタン侯爵と二人きりなのに邪魔が入ってしまう。
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