アルトワ伯爵からの招待状

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 サンドリーヌは恥ずかしさのあまり顔を赤らめて、紳士の顔を見上げて謝罪の言葉をかけた。 「申し訳ございません!」  紳士が手を離すと、赤らめた顔を隠すようにサンドリーヌは俯いて、紳士から距離を取った。 「し、失礼いたしました。あの、申し訳ございません」  サンドリーヌはそう言うと両手を広げて顔を隠し、紳士が向かっている玄関とは反対側にある門の方へと後ずさった。そのまま蟹のように横歩きをして門までたどり着くと、向きを変えて慌てたように走り出した。  サンドリーヌの行動を驚きの目で追っていた紳士は、次から次へと奇妙な動きを見せるサンドリーヌの姿に思わず吹き出した。 「誰だろう。アランは今のレディのことを知っているか?」  隣りにいるもう一人の紳士に尋ねた。  アランと呼ばれたその紳士は、こみ上げる笑いを隠すように片手で口元を抑えてサンドリーヌを目で追っていたが、声をかけられて視線を目の前の紳士に向けた。 「ミス・サンドリーヌだよ。カンブルラン子爵のお嬢様だ」 「ミス・サンドリーヌ……」  愉快そうな目でサンドリーヌが消えていった門を眺めていた紳士は、小さくそう呟いた。  サンドリーヌが激突したこの紳士こそ、現在この国で最も注目を浴びている、ピエール・シャイン伯爵その人だった。
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