王太子の書斎にて

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 しばらくしてドアにノックがあり、使用人がドアの外から声をかけた。 「殿下、ご友人の方が」  言い終わらぬうちにピエールがいきなりドアを開けて入室した。 「おいおい、友人だからと言って承諾のないまま勝手に入るのは失礼だろう」  アルトワ伯爵が強めの声を出した。 「失礼致しました、殿下」  ピエールは身じろぎもせず無表情のままアルトワ伯爵を見据えた。 「アランだけでは事足りぬと考えて参りました」 「いやいやベルタン侯爵から十分にご教授いただけた。今は一息ついて酒でも飲もうとしていたところだ。ピエール、お前も付き合うといい」 「承知致しました、殿下」  ピエールはアルトワ伯爵から差し出されたグラスを受け取った。  アルトワ伯爵が皆のグラスに酒を注ぐと、一様に無言でそれを飲んだ。  そのまま誰も口を開かず、三人は再びグラスに口をつける。 「あー、こんな暗い空気は嫌だ!」  静寂を破ったのは賑やかさを愛するアルトワ伯爵だった。 「おい、ピエール、ベルタン侯爵お一人にお願いしたというのになぜわざわざやって来た。呼んでもいないのに助け舟を出すなど珍しい真似を」 「珍しいことなのですか? ピエールはそのような友情の篤い男だと思っておりましたが」  アランは、まだ親しくなって日の浅いピエールに自分の知らぬ面があるのかと興味深そうに伺った。 「アランは中央で立ち回れるような男ではないからな。つい要らぬ心配をしてしまった」  ピエールがアルトワ伯爵を見据えながら友人からの問いに答えた。 「僕はそんな世間知らずではないよ」  アランは陽気に笑って言う。
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