王太子の書斎にて

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 アランを再び目を細めて見ていたアルトワ伯爵はピエールの視線に気がつくと、慌てて目を逸らせた。 「アルトワ伯爵、何度も申し上げておりますが、ピエールは中央へは来ないと思います」  ピエールの不可解な態度の理由がわかったアルトワ伯爵は大声を出して笑った。 「そんなことか! そんな誘いをかけるつもりはない。お前に何度も釘を刺されていることを内密に試すことはしまい」 「ではアランに何の用があるのですか」  ピエールは表情を崩さずに言う。 「何の用って。王太子が友人を作ろうとして何が悪い」  アルトワ伯爵はオーバーな身振りで心外だと言わんばかりに答える。 「友人ね。ではミス・カンブルランに関することではないのですね?」  ピエールの言葉に驚いた二人は目を同時に見開いた。 「殿下は、ミス・カンブルランに……」  普段動揺することのないアランが珍しくそれを表に出して言った。 「え? あ、えーっと。いやいや」  アルトワ伯爵は言葉に詰まっている。 「いつの間に陛下のお耳に入れようとなさっていらっしゃったのですか」  ピエールはアルトワ伯爵を睨みつけた。 「なぜお前がそれを知っている! 王め、ピエールも自分の側へ付けるつもりか?」 「違います。宰相のネール公爵からお伺い致しました」 「ネールのやつめ」  アルトワ伯爵は舌打ちをした。 「その件はまだ決定していないものと判断しておりましたが」 「お前にお伺いをたてる範囲のことではあるまい。個人的な話なのだから」  アルトワ伯爵も負けじとピエールを見据えながら言う。
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