王太子の書斎にて

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「王太子殿下の奥方様の選別に関しては個人的とは申し上げられないと存じますが」  ピエールは鋭い視線を向けたまま冷静な口調で話した。 「決まったことだ」  アルトワ伯爵はニヤリと口の端を上げた。 「決まってはおりません。陛下のお耳に入る手前で止まっております。大臣連中は、どうにか殿下のご希望を取り下げられないものかと大騒ぎをしております」 「ミス・カンブルランを選んで何が悪い」  アルトワ伯爵は開き直って言った。 「あの娘に殿下の奥方が務まるとは思えないからです」 「逆だ、ピエール。あの娘以外にいないのだよ、この国で俺の妻となるに恰好の娘はな」 「そこまでご執心でありますか」 「そうだ」 「まだ三度程しかお会いしていないように拝見しておりますが」 「三度も会えば十分だろう。父親の子爵の評判も業績も素晴らしいことだしな」  ピエールとアルトワ伯爵のやりとりを眺めていたアランは落ち着かない気持ちになっていた。  アランはカンブルラン子爵の屋敷に出入りし始めて半年になっていたが、その間サンドリーヌの姿を見かけては、心に感じるものがあったからだ。  純真無垢で心優しく、愛嬌のあるサンドリーヌに少なくない好意を抱いていたアランは、彼女に会うことが楽しみがゆえに子爵からの相談を熱心に受けていたと言ってもいい。  対してサンドリーヌは、未だ同性の友人や読書にかかりきりで、結婚やそのお相手に対して興味のない様子であったため、アランは求婚の申し出を躊躇(ためら)っていたのだった。
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