王太子の書斎にて

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 彼女が男性を意識する時期になるまで待てばいい。それまで身近な存在として側に居れば、彼女の関心は自然と自分へ向くだろう。  そう願ってカンブルラン邸へと足繁く通うことが、アランの穏やかな日常を彩る楽しみになっていたのだ。  それが思いもよらぬところから奪われてしまうらしい。  まさか王太子殿下がサンドリーヌを妻にと見初めるとは思いも寄らなかった。  王太子殿下と親しくなったのは最近だが、以前から噂は色々耳にしていた。  年齢が一回り以上離れた夫人にしか見向きせず、未婚で初心(うぶ)なレディには一切興味がないと評判だった。  それが、輪をかけて初心なサンドリーヌに目をつけるとは。  アルトワ伯爵はサンドリーヌのことなどどうでもよかった。彼の一番の関心はアランにあった。  アルトワ伯爵はどうにかしてアランと恋愛関係になれぬものかと彼に思慕していたのだ。  アランの笑顔に心を揺さぶられ、見つめられると口が聞けなくなるほどに心を奪われていた。  ずっとアランを気にかけていたため、彼がサンドリーヌに好意を抱いていることはわかっていたが、それは彼女を妹のように感じて見守っているためなのだろうと考えていた。サンドリーヌを妻にと(めと)れば、アランは妹が王太子に見初められたと誇りに感じるだろうと思い至ったのだ。  子爵の娘だから都合がいいというのも確かだし、サンドリーヌの従順さと素直さも気に入ってはいたが、アランがサンドリーヌのことを気にかけていることが一番の理由だった。  まさかあのような小娘を、この尊く美しいアランが未来の妻として見ているなど、アルトワ伯爵には思い浮かびもしないことだった。
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