結婚の申し出

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結婚の申し出

「サンドリーヌ、話がある」  父カンブルラン子爵から声をかけられたサンドリーヌは、読みかけていた本を本棚へ戻して父の書斎へと向かった。  あの場で言わずにわざわざ書斎へと呼び出すのは悪い兆候だ。イタズラをしたと言って叱られるときによくそうされたからだ。 「いかがされましたの、お父様」  カンブルラン子爵はソファに掛けるようにサンドリーヌを促すと、自分も対面のソファに腰を下ろした。 「サンドリーヌ、お前に結婚の申し出があった」  子爵は内容とは裏腹に険しい表情を浮かべて話を始めた。 「とても光栄な申し出だ。お前に結婚はまだ早いと思ってはいたが、16になり社交界に出たことだし、申し出があった以上、早いなどとは言ってはおれん」  サンドリーヌは考えもしなかった内容に面食らったが、もしかしたらベルタン侯爵からの求婚かもしれないと思い至ると、徐々に顔が熱くなるのを感じた。 「一般的な申し出であれば、一応意に沿わぬこととして受け入れないこともできる。しかし、今回の申し出ではそのようなことはできない」  子爵の表情はますます険しく曇っていく。  サンドリーヌはそれをまだ自分が若すぎるからゆえの表情だと受け取り、断れないのは相手がベルタン侯爵という、これ以上の縁談はないためだと解釈した。 「そのお相手は、ルイ王太子殿下だ」  予想外の名前に、サンドリーヌは自分が聞き間違えたのだと思った。  しかし、カンブルラン子爵の口からはベルタン侯爵の名はついぞ出てくることはなかった。
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