結婚の申し出

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「まさか殿下からお見初めいただけるとは思ってもみなかった。我が娘が未来の王妃になるとは、嬉しいよりも不安の方が勝ってしまうが、心配をしても始まらん。とても光栄なことなのだから、失礼のないようにこれまで以上にマナーを覚えて準備をしておくべきだ」  サンドリーヌは父の言葉が耳に入らぬほど呆然としていた。 「勉強なんぞは取りやめて、王侯貴族に順ずるマナーを身につけることに集中しよう。明日からカミーユではない別の家庭教師に来てもらうことにする。善は急げだ」  カンブルラン子爵は反応のないサンドリーヌを心配して、顔を覗き込むようにして見た。 「サンドリーヌ、大丈夫か? 驚いたのも無理はない。私も最初は信じられなかった。しかし殿下はなかなかの人格者ではないか。王太子でありながら傍若無人に振る舞うこともなく、人々を楽しませようと苦心なされる方だ。国政的な意味での懸念はあるが、友人でもあるシャイン伯爵が宰相として就かれるのだからその点も心配はないだろう。お前は妻として殿下を支えることに専念して、努力を惜しまぬようにするだけだ」 「……はい」  サンドリーヌは心配して饒舌になった父を安心させようと、無理やり言葉を発した。  カンブルラン子爵は、ソファから立ち上がって娘の近くへ歩み寄ると、にこにこと笑顔を浮かべてサンドリーヌの背中を叩いた。 「大丈夫だ。殿下がお見初めになられたのだからお前の良さをわかってくれたということだ。そのままのお前で努力をしていけばいい」
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