結婚の申し出

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 サンドリーヌはなんどか笑顔を作ろうと努力をしたが、驚きすぎて自分をコントロールできないでいた。  その時、ドアがノックされた。  カンブルラン子爵が応じると、従僕からシャイン伯爵の訪問を告げられた。  子爵は伯爵を招き入れるようにと言付けると、到着する前に自らドアへと駆け寄ってシャイン伯爵を出迎えた。 「どうも伯爵。よくおいでくださいました。本日はいかがされましたかな」  ピエールは子爵の招きに応じて入室すると、ソファに肩を落としたままこちらを振り返ろうともしないサンドリーヌを目に留めた。  その視線に気がついた子爵は、娘の無礼を詫びるために説明を始めた。 「シャイン伯爵、申し訳ございません。例のアルトワ伯爵からの話を今、娘にしたところでして、嬉しさの余り心がここにあらずの状態になってしまいました。大変な失礼をお許しください」  カンブルラン子爵の説明を聞いて、まさか本人の耳にまで来ていたとは、とピエールは驚いた。 「あ、伯爵にお見せしたい最新の研究書が先日届きましてね。お渡ししようと思っておりました。ただいま取って参りますのでそちらにお掛けになってお待ち下さい。あ、どうぞ娘のことはお気になさらないでください。すぐに参りますので」  子爵はそう言うと、慌てた様子で書斎から出ていった。  ピエールは促されたようにソファへと向かったが、サンドリーヌを気にせずにはいられなかった。 「ミス・カンブルラン」  ピエールが声をかけると、サンドリーヌの肩が震えた。
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