結婚の申し出

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 ゆっくりと声の主の方へ視線を向ける。 「シャイン伯爵……」  今まで気がついていなかったのか、初めてその存在に気がついたような反応だった。 「ミス・カンブルラン、殿下からの話をカンブルラン子爵からお伺いになられたのですね?」  ピエールはサンドリーヌの対面のソファへ静かに腰を下ろすと、優しく聞こえるように配慮をして声をかけた。 「……はい」  サンドリーヌは目の前にピエールがいることも不思議で、突然父から言われた結婚の申し込みについても不可解で、頭が混乱していた。 「お受けに……なられるのですか?」  ピエールは、心ここにあらずな表情のサンドリーヌを伺いながらおずおずと聞いた。 「え、あ、はい。そうする以外にないと、父が申しておりました」  サンドリーヌは機械的に言う。 「以前ダンスをご一緒していただいたとき、『どなたかに見初められれば受け入れない理由はない』とおっしゃられておられましたが」  ピエールは皮肉に聞こえないように柔らかい声で言った。 「え……あ、はい、申しておりましたね」  サンドリーヌは少し笑った。 「でもまさか、本当にアルトワ伯爵からお話をいただけるとは……考えもしないことでしたので、いきなりのことで、どう受け止めていいか」 「お察しいたします。不躾なことをお伺いしてしまって大変な失礼をいたしました」 「構いません。私にはどうすることもできないことですから」  サンドリーヌはピエールに視線を向けているが、その目はピエールを見ていなかった。
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