結婚の申し出

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 その姿を見て、サンドリーヌはこの申し出に喜んでいるわけではないと確信したピエールは、最近頭に浮かんでいた疑問を投げかけてみることにした。 「ミス・カンブルラン、結婚の申し出があるかもしれないとお考えになられていたお相手は、もしかすると、ベルタン侯爵ですか?」  先程父の口から出てくるのではと考えた名前を、ピエールの口から聞いたことで、サンドリーヌは顔を赤くした。  その表情を見たピエールは、言葉にはならなかった返答を察した。 「そうでしたか」 「あの、違うんです。本音を申し上げると、私はまだ誰とも結婚したくはないのです。ダンスの時に申し上げたように、レディたちとお喋りをしたり、外国の言葉を学んで様々な書物を読むことが楽しいのです。16になり社交界へ出たと言っても、全ての者が結婚したいというわけではありません。私は正直、行き遅れてしまっても仕方がないとまで思っておりました。本当です」  サンドリーヌは誤解をさせてしまったと不安になり、必要以上に説明を加えた。 「ベルタン侯爵は素敵な方だと思います。その、あなた様は申し出があるとしたらその人物はどなたか、とおっしゃられたのであって、私が申し出を望んでいるということではありません。その、ベルタン侯爵でしたら嬉しいとは思いましたが、それでも結婚せずにいられるのであれば、まだ誰ともしたいとは思わない、それは変わりません」
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