アルトワ伯爵からの招待状

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 サンドリーヌは誰にぶつかったのかもつゆ知らず、醜態をさらした自分に恥じ入って林の中へと駆け込んでいた。  父の客人だろうから先程のことを話題にするに違いない。後で小言を言われるはめになると案じたサンドリーヌは、今のうちに楽しんでおこうと気持ちを切り替えて、山菜や果物を探し始めることにした。  30分ほど山菜採りに夢中になっていると、息を弾ませた従僕がサンドリーヌに向かって走ってきた。 「サンドリーヌ様……、こちらに、いらっしゃいましたか」  息も絶え絶えに話す従僕に対して、澄ました顔でサンドリーヌは応える。 「あら、いかがなされたの?」 「お探しいたしました……。こんなところにいなさるとは……」  呼吸を整えながら従僕は続けた。 「ミス・エマ・ヴァロワがご挨拶にいらっしゃいました」 「ミス・ヴァロワが!?」  サンドリーヌは言うが早いか手にしていた山菜を放りだし、自宅の方へと駆け出した。  門の前へ到着すると立ち止まり、息を整えてから落ち着いた足取りで玄関へと向かった。  済ました顔で執事に出迎えられ、応接室にミス・ヴァロワが待っていることを聞いてゆっくりと頷いてみせ、応接室へと足を向けた。
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