伯爵の関心

1/6
前へ
/203ページ
次へ

伯爵の関心

 エマは桟敷に座って観劇をしていた。アルトワ伯爵から招待を受けたジャン=リュック・レネの新作舞台だった。  隣にはピエールが座り、後ろの席にはアルトワ伯爵とアランに挟まれる形でサンドリーヌが座っていた。  サンドリーヌがアルトワ伯爵から求婚されたとの(まこと)しやかな噂が飛び交い始めて二日目の今日、社交界の話題を独占している噂がゆえに、この日の桟敷へはいつもの何倍もの耳目を集めていた。 「ミス・カンブルラン、あの役者は以前ハノーヴァ侯爵夫人と浮名を流しましてね、一度表舞台がら消えていたのですが、実力が相当なものですから、心機一転してまた這い上がってここまで名を上げてきたんですよ。そういう役者は他とは気合が違うものですね。一度落ちた者は誰よりも情熱を傾けて努力をする。そういう者は見ていて安心感があるものです」  アルトワ伯爵が熱心にサンドリーヌに話題を振っている。  自分の好意は(よこしま)なものではないと周りに訴えかけているようだ。 「ベルタン侯爵はご存知でしたかな? あの相手役の女優は以前舞台監督の愛人だったのですよ。しかしその座を若い新人に取られてしまって、役も降ろされ不遇な時を過ごしている。彼女もあの役者と同様に、そこから実力を磨いてここまで上り詰めた口ですよ。以前とはまるで変わった演技力を見れば、色気よりも実力を評価せざるを得ないということです」
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加