伯爵の関心

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「私はただ観劇するだけですので、そういった役者の事情は全く知りませんでした。そういった裏話を伺うことも面白いものですね。彼らの能力の裏にある見えない努力や争いなどが、我々の見える部分にまで影響を与えているのかもしれないと思うと、非常に興味深いです」  アランは舞台に魅入られながらも、アルトワ伯爵の話にも耳を傾けて楽しんでいた。  サンドリーヌはアルトワ伯爵の話に相槌を打つだけで、初めての演劇に心を奪われてただただ感動していた。  対してエマは舞台など一切目に入っていなかった。目は舞台に向けているが、意識は横に座るピエールの方へ集中していた。  ピエールは後ろに座る三人のことが気にかかるのか、彼らが話すたびに僅かに身体を傾け、会話を漏らすまいとしている。エマに話しかけることもせず、エマが話題を振っても二言三言のおざなりの返事を返すだけだった。  幕間の時間になると、エマは気分が悪いから自邸へ送って欲しいとピエールに頼んだ。  ピエールは一瞬躊躇う素振りを見せたが、すぐに快諾した。  ピエールの四輪馬車に乗り込むとエマは早速口を開いた。自邸へは15分程度で到着してしまうため、時間が惜しいのだ。 「シャイン伯爵は、アルトワ伯爵のご結婚のお噂に気が気でないご様子ですね」  エマは単なる軽い話題だという風に装って言った。 「えぇ。いや、ミス・ヴァロワ、どこでそんなお話を」  ピエールは散漫だった意識をエマへと促された。 「二日ほど前から社交界の話題を独占しております。今日も観客の興味は舞台よりも桟敷へと集まっていたことでしょう。お気づきになられませんでした?」
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