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友人として、上級官僚としての自分の知らないことがあるようだ。しかもそれが既に噂になっているという。事実かどうかはさておき、内容は把握しておかなければならない。
「ミス・ヴァロワ、アルトワ伯爵が女性にではなく男性に関心があるというのは、それは、どういった意味でおっしゃっているのでしょうか」
ピエールは真剣な眼差しをエマに向けて問うた。
「あ、あの……」
エマはピエールが噂の内容そのものを知らなかったことに驚き、自分の口から話してしまっていいものか戸惑った。
その迷いに気がついたピエールは、促すように言葉をかけた。
「私は友人の全てを知っているわけではありません。官僚として王太子の噂を把握できていないことも恥ずかしながら事実です。その恥をレディの前でさらけ出してしまうことになりますが、そのお噂について詳しくお教え願えないでしょうか。ミス・ヴァロワからお伺いしたことは誰にも漏らしませんし、懸念されなくても他の誰かから耳に入ることでしょう。それよりも内容を察するに、私は知っておいた方がいいことのように思えるのです」
ピエールはそこまで言うと、エマを後押しをするように優しい視線を向けた。
「ミス・ヴァロワ、お願い致します」
ピエールは頭を下げた。
エマはピエールのへりくだった態度に驚きつつも、愛する彼を助けられるのならと元気付けられて、彼の意に沿うことにした。
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