過去の結婚生活

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過去の結婚生活

 王侯貴族用のマナーを徹底的にしつけてもらうために新しい家庭教師が雇われ、サンドリーヌは王家へ嫁ぐための花嫁修業を開始した。 「ミス・カンブルラン、王妃となるお方はそのようなお言葉はお使いになられません」 「承知いたしました」  しかしサンドリーヌは花嫁修業に集中できないでいた。  貴族の娘として生まれたのだから、結婚は遅かれ早かれしなければならない。社交界デビューを果たすと同時にその覚悟もしておくべきだったが、こんなにも早くその日が訪れるとは夢にも思わなかったのだから仕方がない。  アルトワ伯爵自身に対する印象は悪いものではなかった。会った時の印象からは、優しく気遣いに溢れ人を楽しませることが好きな方だと好意的に感じていた。  しかし、そのアルトワ伯爵が男性にしか興味を抱けない方だとなると話は変わってくる。  つまり自分は全くのお飾りの存在、妻として振る舞うだけの人形として見初められたということではないか。  サンドリーヌは、夢の中の自分、柏木早苗としての自分を思い出していた。  結婚とは夫が妻を養い、妻は夫の生活を支えることを意味するのだ。自分のことは二の次にし、夫の生活を優先する。夫の言うことには全て従い、自分の希望はその都度伺うこと。それは妻としての義務だ。  かつての夫にそう教えられ、従順にそれを守って夫を支えてきた。
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