過去の結婚生活

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 その結果、早苗としての自分は息苦しい日々を強いられ、支えていた夫からは不倫され、果ては暴力によって植物状態になるほどの傷を負わせられた。  自分のことを主張せず、夫の言うことを全て聞き入れて従ってきた結果がそれなのだ。  再び従順な妻としての自分を繰り返すのか?  サンドリーヌとしての自分も不幸にするのか?  自分のことを好きだと言って、優しくしてくれた生田という男性を思い出す。  その生田に似ているアランに彼を重ねていた。  お相手がベルタン侯爵だったらよかったのに。  そう何度心に上らせたことだろう。  早苗としての記憶から結婚というものに対して忌避感すら抱いていたサンドリーヌは、再び抑圧された結婚生活を送らねばならないのだと思うと、以前のように楽しい気持ちでいることなどできなかった。  注意が散漫なサンドリーヌを見た家庭教師は、今日のところはこれで終了にしましょうと言って早めに切り上げたため、サンドリーヌは鬱屈した気分を変えるために散歩へ出ることにした。  門を出て林の方へ進んでいると、一台の馬車が通りかかった。サンドリーヌはぶつからないように身体を避けたが、馬車は目の前で停車した。 「ごきげんよう、ミス・カンブルラン」  顔を覗かせたのはシャイン伯爵だった。 「ごきげんよう、シャイン伯爵」  サンドリーヌは力のない笑顔を向けて挨拶を返すと、すぐにまた歩き出した。
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