過去の結婚生活

3/6
前へ
/203ページ
次へ
 足早に去っていくサンドリーヌを追いかけようと、ピエールは急いで馬車から降りて駆け寄った。 「散歩ですか?」 「はい」  サンドリーヌは驚いた。挨拶を終えたのに、なぜわざわざ降りてきてまで改めて声をかけたのだろう。 「ご一緒してもよろしいですか?」  ピエールは笑顔を作ろうとして失敗し、苦笑いのようになって言った。 「構いません」  サンドリーヌはピエールの意図が読めずに不安になった。  シャイン伯爵はアルトワ伯爵のご友人だから、様子を伺いにきたのだろうか。  サンドリーヌはせっかく気分を変えようと散歩へ出たというのに、気分転換になるどころかさらに追い打ちをかけられるのだと思うと表情を暗くした。  二人は押し黙ったまま、200メートルほど歩いた。  人気(ひとけ)のない林の中へ差し掛かると、ピエールがおもむろに話を始めた。 「ミス・カンブルラン、あなたはその、アルトワ伯爵のお噂をお聞き及びとのことですが」  声のおずおずとした調子に驚いて、サンドリーヌはピエールの方を見やった。 「お噂とは? 私との結婚についてのことではなくて別のお噂ということでしょうか?」 「はい。アルトワ伯爵のその、性的指向のことです」  サンドリーヌは何を言われるのかと訝しんだ。 「存じておりますが」 「それでは、あなたはそれをご存知のうえで、このお話をお受けになられると」
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加