過去の結婚生活

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 サンドリーヌはピエールから再び同じことを聞かれて気持ちが(たか)ぶり、歩みを止めてピエールの方へ向き直った。 「以前にも申し上げたことと思いますが、私の意向など関係のないことです。もしお受けする意向がなかったとしても、アルトワ伯爵と父の間で交わされた以上破談にすることはできないことだと思います」  サンドリーヌのことを引っ込み思案でおとなしい娘だと思っていたピエールは、サンドリーヌの荒げた物言いに驚いた。 「二度も同じことをお伺いして大変失礼いたしました。ですがただお怒りを買うために念を入れたわけではありません。この話はまだ決定してはいないのです。王太子殿下がお望みでも、まだその父である王は承諾をされていらっしゃらないからです」  サンドリーヌは驚いて一瞬静止したが、すぐに気を取り直して言葉を返した。 「それは子爵の娘が相手だからでしょうか」 「おっしゃるとおりです」 「それではもし陛下からのご承諾がいただけず不首尾に終わるとどうなるのでしょう。父に、カンブルラン子爵に対して何か影響はあるのでしょうか?」 「特段お気になさるようなことはありません。結婚のお話が進んでいたところで不首尾に終わることなど、よくある話です。王太子のお気持ちが変わられるとか、反対に遭うなどは日常茶飯事のことであります。それによってお相手の品格が凋落するようなことは一切ありません」
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