アルトワ伯爵からの招待状

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 サンドリーヌは応接室へ来るとノックをして入室し、済ました表情を維持したまま挨拶をした。 「失礼致します。大変お待たせいたしました」  部屋の中央には大きな革張りのソファが対面に置かれており、ドアから見て正面の位置にミス・エマ・ヴァロワの姿があった。エマはサンドリーヌの姿に気がつくと、立ち上がって笑顔を見せながら挨拶を返した。 「とんでもありません。いきなり訪問してしまったのは私です。お忙しいところを失礼いたしました」  エマに気を取られていたサンドリーヌは、エマの対面に座る紳士の姿に気がつかなかった。 「初めまして、ミス・カンブルラン」  ソファから立ち上がった紳士がサンドリーヌの方へ身体を向け、エマに続いて挨拶をした。 「ピエール・シャインと申します」  ピエールはそう言って僅かに口角を上げた。 「ごきげんよう。ミス・カンブルラン」  隣にいた紳士も続いて立ち上がり、サンドリーヌに笑顔を向けた。 「ベルタン侯爵……」  サンドリーヌはそう呟いたままあっけにとられて立ち尽くしていると、後ろからサンドリーヌの父であるカンブルラン子爵が現れた。 「サンドリーヌ、何を突っ立っておる。お客様に失礼だろう。入りなさい」  カンブルラン子爵はそう言うと、サンドリーヌの背中に手を添えてソファの近くまで支えて行った。
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