過去の結婚生活

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 それは嘘であったが、カンブルラン子爵の評判の高さは広く知れわたっていることであるし、皆にサンドリーヌが憐れまれていることも含めれば、同情を買うことはあっても非難の的になることはないだろう、とピエールは考えた。 「そうですか」  サンドリーヌは驚いたまま見開いた目で宙を見つめていた。 「ミス・カンブルラン、私もこの結婚には賛成しておりません。それはお父上の爵位の問題ではありません。友人としてアルトワ伯爵の意向に賛成しかねるからです」  サンドリーヌが反応を返さない様子を見て、ピエールはそのまま続けた。 「男性にしか興味がないのであれば、お相手に選ばれるご令嬢は不遇の生活を強いられます。それをわかって結婚に賛意を示すなど、友人としても見て見ぬふりはできかねます。私の立場からアルトワ伯爵にご進言申し上げることができるなら、それをしない理由はありません。お気持ちを惹かれるご令嬢に出会うまで待たれるか、しきたりを変えて紳士を(めと)られるか、そのように殿下のご意向を変えるよう努めることはできるのではないか、と考えております」  ピエールは眼差しは真剣だった。  サンドリーヌはその考えに驚くと同時に、自分を気にかけてわざわざ口にしてくれたことに感動していた。
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