過去の結婚生活

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「あの、私はもう、王のご承諾を待つ以外に道はないものと決めつけておりました。もう、どのようなことになろうとも、ただ耐え忍べばいいものと考えて……」  そこで言葉が詰まってサンドリーヌは俯いた。 「不幸な結婚を黙って見過ごすことは致しません。あなたが耐え忍ぶだけの人生を送ることにならないよう、私が尽力致します。私がそうお約束致します」  サンドリーヌはその言葉でピエールの顔を仰ぎ見た。  真剣な眼差しをサンドリーヌに向け、そう約束したピエールを見て心臓が高鳴った。  なぜここまで言ってくださるのか。  友人の迷い言のためとは言え、なぜわざわざそんな面倒事を引き受けると言うのか。  これまで男性を特別に意識したことのなかったサンドリーヌは、アランに対するものとも違う何かを、ピエールに対して初めて感じていた。  自分を気にかけてくれるアランに対して好意を感じていたものの、それは楽しさや安心感と言った父に対する愛情に近いもので、彼を想うだけで胸が高鳴るような類のものではなかった。  サンドリーヌは生まれて初めて、男性が自分に向けた言葉に感激し、早苗としての人生をも含めて初めて、こんなにも胸が高鳴る想いをしたのだった。
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