時は短し、恋せよ伯爵

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時は短し、恋せよ伯爵

「ピエール! どうした? 最近何度も従僕を向かわせていたが不在の報告しか受け取れていなかったぞ。何をしていた?」  王太子専用の応接室のソファに、アルトワ伯爵はワインを片手にふんぞり返るように座っていた。 「申し訳ありません、殿下」  ピエールは仰々しく(こうべ)を垂れた。 「おい、やめろ! どうした?」  そう言うとアルトワ伯爵は跳ね起きてピエールをソファへと促した。  ソファへ掛けたピエールは俯いたまま押し黙っている。 「おい、ピエール。どうしたというのだ? あれか? 結婚の話が進んでいることが面白くないのか?」 「はい」 「お、素直だな」 「王がご承諾していらっしゃらないというのに、なぜこんなにも街の噂になっているのですか?」 「そんなこと知るはずがあるか」 「ネール公爵にお聞きしたことによれば、大臣にも官僚連中にも箝口令(かんこうれい)を敷いているといいます。そこから漏れるはずはありません」 「口が軽い者がいるか、使用人からの噂であろう。そんなことはよくある話だ」 「そうではないだろう、アルトワ」  ピエールはいきなり口調を変えた。  ピエールの変化と鋭い視線に気圧されたアルトワ伯爵は怯んだ。 「なんだよ、いきなり」 「お前が流しているのであろう? 噂が広まればコソコソと好きなことをしていても、それは気取られないと考えて」  ピエールは厳しい声で返した。 「ふん、そうだとして、それがなんだ」  アルトワ伯爵は開き直ってそれに答える。
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