時は短し、恋せよ伯爵

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「ミス・カンブルランやカンブルラン子爵はどうなる? 子爵としての爵位の低さが嘲笑され、ミス・カンブルランの野心をあげつらわれ、品位を貶められているというのに」 「それでも結局は未来の王妃として迎えられるのだから、多少口の端に上がったところで後の影響にはなるまい。今だけのことだ」 「お前が自由を楽しむ時間稼ぎのためにな」 「それくらい構わんだろう? 俺は王太子だ」 「もしも結婚の話が白紙に戻ったらどうなる?」 「え、いや、他の娘をまた探すのか? それは面倒だが」  アルトワ伯爵は予想外の答えに少し怯んだ。 「お前の面倒などどうでもいい。ミス・カンブルランとカンブルラン子爵はどうなる、と聞いているのだ」  ピエールはさらに語気を強めて言った。 「そんなことを知ってどうなる。白紙に戻す必要などないのだから。いくら父でもここまで噂が広がれば承諾せざるを得まい」 「そもそも結婚など、する必要はないのでは?」  ピエールは調子をやや弱めて言った。 「そうだよ。俺もそう思っている。せめてあと五年、そうだ五年は自由にしていたい」  そういう意味ではないのだが、という視線でアルトワ伯爵を見やっていたピエールは、それには応えずにグラスに口をつけた。  その時ドアにノックがされ、アルトワ伯爵が促すと従僕が入室し、頭を下げてこう言った。 「殿下、ベルタン侯爵がお見えでございます」
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