時は短し、恋せよ伯爵

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 その合間を縫って王太子の結婚沙汰に首を突っ込み、果ては友人やその想い人の間を奔走してやるなど、ピエールには寝る暇もなかった。  それは、ピエール・シャインという男の思いやりの深さと、利他的な優しさがゆえのことだった。  自分の目に入る者が不幸せになることは許せない。  自分にできることがあればその努力は惜しまない、という正義感に突き動かされる男だったからだ。  世襲でもなくコネもない地方貴族であったピエールが、未来の宰相と呼ばれるまでにこの中央で信頼され、将来有望と目されている一番の理由はそれだった。  頭脳明晰で智略に富み、官僚としての能力の高さもさることながら、人望が篤く絶対に人を裏切らない、そういう人を惹きつけてやまない性格こそが、彼の魅力の根源にあるものだった。 「いつの間に、そんな親しい仲になっていたのだ?」  ピエールは楽しげに会話に興じている二人に割って入った。 「アルトワ伯爵が毎日のように観劇にご招待してくださって、新作から話題作まで見逃さずに楽しむことができているんだ。こんなことは初めてだ。アルトワ伯爵には感謝をしてもし足りないほどだよ」  アランは無二の観劇好きだといっても一番の興味は農業経営にあるのだと思っていたが、実際はこんなにも観劇が好きだったのか。  裕福とは言えない地方貴族としては、毎夜開かれる観劇に足繁く通うなど到底無理なことだと我慢をしていたのだろうか。
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