時は短し、恋せよ伯爵

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「すべての劇場に桟敷を持っているのに、それを毎夜無駄にしていたのでは勿体ない。アランのような観劇好きが利用してくれるのなら、それに越したことはない」  アルトワ伯爵はニコニコと親しげな笑顔でアランを見つめている。 「伯爵、昨夜の幕間の余興は面白かったですね」  アランが先程盛り上がっていた会話の続きを始めた。 「そうだな、あれくらいならば俺にもできそうだ。今度また舞踏会を開くときに余興として試してみるのも面白いかもしれない」 「それは面白そうですね! 自らやってみるというのは観劇好きとしてくすぐられます」 「そうか、アランはそういった方にも興味があるのか。では次の舞踏会はアランにも協力を仰ぐことにしよう」 「喜んで承ります」 「早いところ計画を始めよう。そうだな、来月開催することにして、今のうちに道具を取り寄せてだな……」  二人は楽しく盛り上がっている。  その様子を眺めていたピエールは、アルトワ伯爵の目の中にも、僅かな態度にも表れ出ているあることに気がついた。  アルトワ伯爵は、アランを愛しているのではないか。  そう思い至ると、それを肯定する要素ばかりが目についた。  アランを愛おしそうに見つめるアルトワ伯爵の視線、アランに触れようとして戸惑い、途中で手を止める所作、アランに笑顔を向けられ、戸惑って目を逸らしてしまう仕草など、恋する者の姿そのものではないか。
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