時は短し、恋せよ伯爵

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 天下無敵の王太子が、地方貴族の一紳士に対する態度とはとても思えない。  友人も愛人も多くいて、好き勝手に振る舞える相手に困ることのないアルトワ伯爵が、その社交をバッサリと止め、派手な振る舞いを控えて、一人の友人と静かに観劇に興じている。  それは全てアランとの仲を深めるためであったのか。  ピエールは思っていた以上に面倒なことになっていることに気がついて、気が遠くなりそうだった。  アルトワ伯爵は、愛する男が心を寄せている相手が、現在自分の手で苦しめているミス・カンブルランであることを知らないのだろうか。  いや、知っていてわざと彼女を選んだのか?  自分へ愛情を向けさせるために彼女を諦めさせようと?  いやいやそれはおかしい。恨まれるようなことをしているわけなのだから。  アルトワ伯爵は愛する相手の目がどこへ向いているのか気がついていないということか。  アホというのか、盲目というのか。  恋する者ならば最も気にすることのようにも思えるが。  ピエールは、自分は恋をしたことがないくせに、恋する者の道理を考えて一人心の中で問答を続けていた。
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