ヴァロワ邸でのお茶会

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ヴァロワ邸でのお茶会

「ミス・ヴァロワにお招きただけるなんて、感激ですわ」  マリーがお得意のキイキイ声を上げた。 「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」  アンナは丁寧にお辞儀をした。 「ふふふ。お集まりいただきまして嬉しく思います。本日は不束かな演奏ですがピアノを少し披露させていただきますのでお聞きくださるとありがたいですわ」  エマはピンクのシフォンのドレスを軽やかに纏っている。 「ミス・ヴァロワの演奏をお聞きできる日を楽しみにしておりました」  サンドリーヌは微笑を浮かべて言った。 「ミス・カンブルランがお元気になられることを願っておりますので、少しでもお力になれれば幸いです」  エマはにこやかに返した。  しかし、サンドリーヌに好意を持ち、仲良くしようと努めていたエマはもういなかった。  数日前、気落ちしているサンドリーヌを元気づけようと考えたエマは、カンブルラン邸へと馬車を走らせていた。  自宅へ訪れると従僕が出て、ミス・カンブルランは散歩へ出かけたと言う。  エマは散歩を日課にしていることもあり、従僕にサンドリーヌの散歩コースを教えてもらうと、御者にカンブルラン邸で待っているように言ってサンドリーヌの後を追うことにした。  散歩へ出たのはつい先程だという話だから、脚力に自身のあったエマはまだ十分に追いつけると思ったのだ。  そうして散歩道を辿っていくと、すぐにサンドリーヌの声が聞こえてきた。嬉々として走り寄ろうとしたときに、エマの愛する男の声も耳に入ったのだった。
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