ヴァロワ邸でのお茶会

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「あなたが耐え忍ぶだけの人生を送ることにならないよう、私が尽力致します。私がそうお約束致します」  そう言ったピエールが、サンドリーヌの震えた肩に優しく手を添え、ハンカチを差し出していた。  エマはその瞬間激高し、嫉妬に心が乱れた。  私ですらシャイン伯爵からあのようにお手を触れられたことはない。  それに加えてあの伯爵の言葉はどういった意味なのか。  その時二人はこちらへ向かって歩き出したため、エマは悟られぬように急ぎ足でカンブルラン邸へと戻り、裏門から馬車で帰った。  それからエマがカンブルラン邸へ訪れたとき、二度ほどピエールの姿を見かけた。  カンブルラン子爵との会合が目的だったようで、エマが訪れるとすぐに子爵がピエールを迎えに来て書斎へと連れ立って行ったが、応接室へ入った際にサンドリーヌとピエールが二人きりで親しく話している姿が目に焼き付いていた。  その間に開かれた舞踏会ではピエールが来ること自体少なかったが、それでも顔を出した時はずっとエマの側にいて、エマとだけダンスを踊って帰っていった。ピエールの行動も以前通りで、態度に変化も感じられなかったが、サンドリーヌとのことが気にかかり、エマは以前のような自信を持つことができなかった。  そもそもシャイン伯爵から愛を感じるような眼差しを向けられたことがあったであろうか?  あまりレディと口を聞かず、社交の場にも出ないシャイン伯爵が、自分のことだけはエスコートをしてくれて、ダンスを踊ってくれる、それだけで自分が選ばれたのだと判断していたが、他の紳士に当てはめて見ればそんな些細なこと、なんのこともない話だ。
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