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エマは慣れた手つきで素晴らしい演奏をし終えると、ピアノに集まって傾聴していた三人をテーブルへと誘導し、お茶会を開始した。
「先日の舞踏会では、アンナは二度もベルタン侯爵と踊ってらしたわね」
マリーがにこにこしながら話題を振った。
「二度踊ったからと言ってたいしたことではないわ。婚約する以前のサンドリーヌならベルタン侯爵ともっとたくさん踊っていらしたじゃない」
アンナが気恥ずかしさを隠そうとしてぶっきらぼうな調子で返す。
「そうね、そんなときもあったわね。ベルタン侯爵はカンブルラン子爵と仲良くされていらしたから、サンドリーヌが社交界で早く慣れるようにとお手を貸してくださっていたのね」
「お優しいお方ですわ」
「近頃のベルタン侯爵はアルトワ伯爵と親しくされていらっしゃるようね」
マリーの不躾な物言いにアンナが言い返す。
「でもベルタン侯爵はアルトワ伯爵のように男性にご興味を惹かれる方ではないわ」
「そうであったとしても急に仲が深くなったとは思わなくて?」
「それはご友人としてお気持ちが合っていらっしゃるの。ベルタン侯爵は以前とお変わりがないご様子よ」
「でも誰もが知っているアルトワ伯爵のお噂を、あんな側におられて知らないはずはありませんわ」
「お側に居なさるから、お噂が耳に届かないのではないかしら。お近くにおられる方の耳にわざわざ入れるようなことは普通しないものです」
エマが落ち着いた態度で、マリーの問いに割って入った。
「おっしゃるとおりですわ」
マリーは納得した様子で目を見開いた。
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