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ベルタン邸への訪問
「やぁ、ピエール。珍しいな」
ピエールはアランを尋ねてベルタン邸の玄関をノックしたところだった。
「今から外出か?」
運動でもするかのようなアランの軽快な装いと、ドアをノックしてすぐに開けられたことから考えついた疑問をピエールは問うた。
「そうだが、よかったらピエールも付いて来るといい」
アランはピエールの横を通り抜け玄関ポーチを駆け下りると、軽装馬車を指で差した。
アランは週に二度、自身の領地を見回ることにしていた。農奴に声をかけ、作物の様子を聞き、不満はないかを問い、必要があれば叱責もする。農奴たちを放っておくと大変なことになると言って、頻繁に見回らなければ落ち着いていられないのであった。
「アラン、今日は中央へは行かないのか?」
ピエールは馬車に揺られながら会話を始めた。
「そうだな、最近向こうへ行ってばかりでこちらが留守になっていた。少し頻度を抑えた方がいいかもしれない」
アランは作物の様子を目で追いながらピエールに応えていた。
「あ、あんなところに道具を投げている! 言っておかなければならない」
「アランは、その、ミス・カンブルランとは会っているのか?」
ピエールから出た名前に、外へ散らしていたアランの注意がピエールへと注がれた。
「ミス・カンブルラン?」
「そうだ。その、アランは」
「会ってはいないよ。舞踏会よりも観劇にばかりかまけていたからな。そう言えば最近は全くお姿を見かけていなかった」
アランはそう言うと歯を見せて笑った。懐かしい名前を聞いた、とでも言うような笑い方だった。
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