ベルタン邸への訪問

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「そうか。その、アランはそれでいいのか?」 「ん? どういう意味だ?」  躊躇いがちに言葉を探しているピエールに対して、アランは朗らかに聞き返す。 「アラン」  遠回しに聞くことを諦めたピエールは、単刀直入に質問を投げかけることに決めた。 「お前は、ミス・カンブルランに他のレディにはない感情を抱いていたのではないか?」 「ははは。遠回しな言い方だな」  アランの表情は変わらない。 「……つまり、結婚を申し込もうと考えていたのではないか?」  今度こそ直接的な言葉で聞いた。 「あはは! そんなことはないよ。どうしたピエール。彼女は未来の王妃になるお方だ」  アランに動揺の影は一切見えない。 「そうだが、そうなる以前はどうだったのかと」 「そんなことを聞いてどうなるんだ? カンブルラン子爵が娘に良い結婚をさせることができたと喜んでいる、そして僕も嬉しいと思った、それだけだよ」 「では、お前は一度もミス・カンブルランに求婚をしようと考えたことはなかったというのか?」 「ははは。そりゃあるよ。カンブルラン子爵にはお世話になっているし、彼と親戚になることも悪くないと思っていたからね。ミス・カンブルランは可愛らしい娘だから妻にしてもいいと考えたことはあったよ」  アランの笑顔は普段通りだ。 「もし、アルトワ伯爵との結婚の話が白紙に戻ったら……」  ピエールは言葉を探して必死な形相になっていた。
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