ベルタン邸への訪問

5/6
前へ
/203ページ
次へ
「いや、この話はまだ王の耳には入っていない。まだ進んだ段階ではないんだ。大臣連中は侯爵以上の相手を探して大騒ぎしている。俺が聞いたところアルトワ伯爵は、数年結婚せずに済むのであれば、急いで結婚などしたくないと言っているらしい。つまり、あと数年息子を自由にしてやると王が許可を出してくれたら、この話は白紙に戻すことができるってわけだ」 「つまりアルトワ伯爵は、爵位の低い子爵の娘だからという理由でミス・カンブルランを選んだというのか?」 「それだけではないが、一番大きな理由はそれだろう。結婚したくないってだけだ」 「なぜそうまでして結婚したくないのだろう」 「そんなことはどうでもいいではないか。お前の想いが遂げられるかもしれないのだぞ」 「想いを遂げる?」  アランは宙を見つめたままオウム返しに呟いた。 「アルトワ伯爵の牽制に付き合っている暇はない。王太子のために、ミス・カンブルランの気を惹いておける今のこの時間を無駄にすることはないと言っているんだ」  ピエールは焦れったそうに言う。 「しかし、なぜ僕に牽制する必要がある?」 「それは、ミス・カンブルランと結婚するかもしれないから」 「誰でもよいと言って選んでいるんだろう? 彼女の気持ちは関係ないではないか。王太子からの求婚を断れる者はいないのだし。それこそ王が結婚させると決めたら、彼女がどう思おうが嫁がねばならないのだから」  ピエールは返す言葉を必死に考えているが、先にアランが言葉を継いだ。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加