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「ど、どうしてくれるのよ⁈ 彼女に見られたじゃないの!」
動揺のあまり、せっかくのお化粧が流れてしまってるカミーラ嬢と反対に、ジノンとかいう男はわたしを冷静に見下ろした。
「……始末する。おまえは式に向かえ」
カミーラ嬢は一瞬わたしを見たけれど、そのまま前を横切り、部屋を出て行った。
そ、そんな……。
ドアの向こうからちょうど案内の女性が迎えに来たのか、声が聞こえる。
「始まります。王子がお待ちですよ。……あら? 立会人のかたは」
「急に具合が悪くなったみたいで、化粧室から戻って来ないの。……そうだわ、あなたでいいわ。立会人をやってくださらない?」
「えぇ⁈ わたくしがですか?」
声が遠ざかっていって、どうなったのかはわからない。
でも、わたしがいなければ、皆さん……何よりユリウス様が不審に思うはずだ。
「来い!」
ジノンはわたしの腕をつかんで立ち上がらせると、窓から外へ出た。
教会の裏側は広大な墓地だ。ここは貴族のための墓所なので、ところどころ立派に祀られた霊廟もあったりする。
教会の建物からだいぶ離れたところで、ジノンは白い大理石で造られた霊廟の陰にわたしを押し倒した。
「……おまえは、あのときの」
このとき初めてわたしの顔をちゃんと見たのか、ジノンはようやく気づいたみたいだ。
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