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「……わたくし、御化粧室に。みなさま、どうぞそのまま楽しんでらして」 わたしが席を外すと、少し離れた辺りから張りつめていた空気が解けて談笑が漏れ聞こえてきた。 うんざりだ。 わたしがいない方が、きっとみんなも気楽だろう。 言葉通り手洗いなど行くはずもなく、わたしは王宮の下にある古い地下道へ足を運んだ。 あー、涼しい。 ここは昔、本殿と召使の住居塔を結ぶ通路として使われていたらしいけど、今は地上の通路を使っているので、必要なくなった。ただ王宮地下だけあってやはりとても広く、じつはわたしも全貌は把握していない。噂では罪人を閉じ込めてた地下牢もあるとか。 そんな怖い噂があるからか、わたしみたいな令嬢はもちろんのこと、召使たちも存在は知っていても使うことはないみたい。 お父様へのお使いついでに庭園をぶらついていて、去年偶然見つけた入り口。じめっと暗い入口を下っていくのは少し勇気がいったけど、中に入ってしまえば地上からの光が差し込む採光部がちゃんと設けられていて、意外と先まで見通すことが出来る。 とはいえ、多くの柱以外は何もない、本当にただの通路だ。 入口は他にもありそうだけど、出口もおそらく何ヶ所かある。以前、王宮正門のすぐ側に出てしまい、衛兵に見つかりそうになって焦ったこともあったっけ。 今日はどこから出ようかな。というか、もうこのまま自宅へ帰ろうかな。
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