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Ⅰ
「アリッサ! 怪我はないか? 何があった?」
わたし、アリッサ・ハーネケンはユリウス・カーネリウム様にぎゅっと抱きしめられて、命が助かったことを実感した。なぜ彼が助けに来てくれたのかはわからないけれど、とにかく御礼と体には傷一つないことを伝えなければと思い、口を開く。
「……」
恐ろしい思いをしたばかりだから全身震えている。だからなのか、声が出ない。
「アリッサ?」
少し体を離してユリウス様がわたしを見た。彼の美麗な顔が間近にある。急に動揺したけど、心配そうに揺れる青い瞳を見て気をとりなおす。大事なことを伝えなきゃ。
「……」
えっ? 声が。
どうして……しゃべれないの?
『犯人は二人組でした』
あらためて言葉にしようとすると、今度は喉に鋭い痛みが走り、思わず喉を押さえた。
「どうした? アリッサ⁈ もしかして喉に怪我を?」
喉を切られたわけじゃない。一瞬の痛みで、今はもう感じなかった。
けれど
どうしても声が出ない……というか出せなかった。これはいったい?
そういえば
あの男が去り際にわたしの喉をつかんで、こう言った気がする。
『おまえは今から一切口をきけなくなる。このことを誰かに伝えることは決してできない』と。
一時間ほど前。
わたしは王宮主催のお茶会という名の『新婚約者カミーラ・ディグビー嬢を褒め称える会』に参加していた。
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