16 夫人の部屋に居たもの

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16 夫人の部屋に居たもの

 何というか、もどかしい。  やっぱり何処かであやふやになってしまう、ということか。  ただそれでも一つ言えるのは、お祖父様の昔知っていたハイロール男爵家は、決して世渡りが上手そうな人々の集まりではなかったということだ。  オラルフ弁護士が何処まで調べてくれるか、が気になるけど……  そんなことを思いながら、いつもの様に掃除のために二階へと上がっていった。  すると先日届いた壺――壺というよりは、瓶らしい――が開いた扉から、夫人の部屋の中にあるのが見えた。  そう言えば、こういうものを送ってくるのが、かつての男爵家ってことなんだよな、とふと思った。  ……あれ?  何かが頭の中で引っかかった。  とりあえず階段の手すりを磨きながら、その考えをもう少し深めてみようと思った。  と。 「……ふ」  夫人の部屋から、聞き慣れぬ声が聞こえた。  私はたたた、と階段を駆け上がり、夫人の部屋へと向かった。  瓶が見えている様な状態。  扉は開いたままだ。  私はその扉をノックする。  中で布のこすれる音が聞こえる。  夫人は今日、起きてきただろうか? 「あの、扉が開いていますが、何か御用事でも」  わざとらしいが、そう言ってみる。  だが返事は無い。  ふと、部屋の空気の中に、生々しいものを感じた。  リネンを交換する時に時々感じるそれ。  夫人の部屋のそれは、日によって変わる。  父が戻って、夫人の部屋に泊まった時には、酷く生々しい匂いが染みついている。  夫人一人の場合でも、月のものの予定によっては変わってくる。  だがそのどれとも微妙に違う匂いが、この時の部屋には漂っていた。 「いらっしゃらないのですか……?」  夫人のいらえは無い。  私はそっと中に入ってみる。  誰も居ない様に見える。  けど。  ゆっくりと、抜き足差し足で、夫人の寝台へと近づく。  そうっとのぞき込む。  ――小さなふくらみが、そこにはあった。  子供? 「そこで何をしているの!」  夫人の声が飛んできた。 「あ、え…… あの、扉が開いていたので」 「アリサお前は、扉が開いていたら、平気で中に入って私の物を物色するのかい?」 「そんなことは。それより、この子供? は……」 「東から送られてきたものよ。聞いていないの? 洗わせた時にお前は居なかったとでも? ああ、お前は掃除だけしていたからね。でもこの部屋はお前の担当ではないはず」  夫人は私の肩をむんずと掴むと、そのまま扉の方へ投げだした。  私は扉にしたたか背を打ち付け、幾度か咳こんだ。
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