29 「弟」から乳母が去っていった

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29 「弟」から乳母が去っていった

 私はフレドリック伯父へと手紙を書いた。  その中で、 「お祖父様の蟄居もそろそろ解けるので、できれば一度お会いしたく。  ご家族とご一緒にいらしてくだされば嬉しい」  ということも入れた。  いくらお祖父様が向こうでの奥方達のことを許せないと言っても、それでも嫡男なのだし。  私の立場的にも一度会っておくのは必要だと思う。  何も言わずに私に直接継がせるなんてことをしたら、もともと長子相続のこの国では面倒なこともおきかねない。  そろそろ立つ鳥の気分になってくる。  様々な部分の情報は相変わらず皆さん任せで、あとは待つぶん。  そうなると、この家で気になるのは弟と、「ペット」の子のことだ。  私が思う方向に進んだ場合、この二人はどうなるのか。  いや、そこまで心配する必要はないとは思うのだけど。  夫人は仕立屋を呼んで服を作らせて以来、ペットの子は何かと夜会に連れ回されている。  身長からすると、私より幾つか年下くらいに見える。  そして弟よりは上。  とは言え、東洋人の歳はわからない、と先日キャビン氏も言ってたから、もしかしたら私と同じくらいなのかもしれない。  だとしても!  一度玄関を通って行く時に間近で見ることができたけど、ほっぺたがすべすべ!  東洋人の肌は違うとは聞いていたけど、……本当に違う。  黒く長い髪を後で一つにまとめて三つ編み。  細い黒い目。  音もせず歩いて行くその靴も、皆のとは少し違っていて。  あとは何やら不思議な香りがふっと漂った。  しかし連れ回していいんだろうか?  入手経路さえ問題がなければいいんだろうか?  その時はつい、そんなことを考えていたので手が止まってしまった。  しかし考えてみれば、夜会が多いということは夫人の留守も多いということだ。  ふと、あの瓶のことが気になった。  相変わらず部屋の中にあるのだろうか。  二階に出向いてみると、廊下にそれは移動していた。  そしてその近くで、弟が一人で遊んでいた。 「坊ちゃん、危ないですよ」 「あぶなくないよ」  いや、どう見ても危ない。  もし瓶が倒れてきたらどうするんだ。 「とっても重いものですからね。ところでもう遅い時間ですよ。お部屋に戻りましょう」 「やだ」 「乳母はどうしましたか?」 「いないよ」 「え?」 「さっき、なんかおおきなにもつもってさようならっていってた」 「何ですって?」  私は弟を階下に降ろし、そのまま使用人棟へと向かった。 「ああ、困ったもんですよ。突然さっきやってきて、給料の精算、と言って飛び出していったんですよ」  ヒュームはそう言った。 「とりあえずハッティかロッティ、坊ちゃんを寝かしつけなさい」 「はーい」  そして二人して弟を連れていった。
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