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13 友人達を押し切ったカミーリア嬢とは
「平たい顔ですか」
「肌はもの凄く綺麗なのよ。私達が白粉をしないとそばかすとかシミとかすぐに出てしまうのに、平たい顔の彼等ときたら、何の粉もはたかなくても一様に綺麗な肌! 色は黄色いけど、それでもあの細い目と薄い唇にはよく似合っていなくもないわ」
はあ。
なるほど、東洋人というのはそういうものなのか。
私は初めて聞く異国の人々の外見がなかなか想像できなかった。
*
それから少しして、今度はルルカ男爵夫人エリーゼ様のところへ訪問ができた。
これがまた、スリール子爵の家くらいの感じで、しかも男爵と夫人、お子さんと揃って、笑い声の絶えない家庭だった。
なるほどこれが「しあわせなおうち」なんだな、と私は昔本で読んだお話を思い出していた。
少しばかり胸が痛くなる。
アリサがこの家を見たらどう思うだろう。
……いや、アリサはもしかしたら何とも思わないかもしれない。
私が羨ましい、と少しでも思うのは、数年であれ両親がそれなりに自分を愛してくれたと思った時期があるからだ。
だからそんな家に憧れを持つ。
だけどアリサはそうじゃない。
はじめから、彼女には何も無かった。 マルティーヌも言っていた。
自分は乳母であって、母親ではないと。
そして旦那様はあくまで旦那様だし、自分はできるだけアリサを隠すことに徹してきたと。
マルティーヌはそう言っていた。
だからアリサにとっては、この光景はどうだろう?
……まあそれは、後で聞く話だ。
ともかくこの時点で判ったのは、前夫人がカミーリア嬢だった時代、友人達は男爵との結婚に皆反対だったということだ。
そしてそんな友人達の反対を、カミーリア嬢は押し切ったということだ。
それほどに二人は好き合っていたということだろうか。
考えられる。
特に男爵は。
そうでなければ、自分と夫人の血のつながった子供をその場で死の原因ということで殺そうとはしないだろう。
その上、腹に子を身籠もった私の母に隙をつかれるくらいに。
だとしたら、私が男爵にそれでも途中までは娘として遇されていたのは、自分の血を引いているから、よりは「母を特に愛してはいなかったから」とも考えられる。
だからこそ、別の男の子供を娘として扱うのは我慢ができなかったのだろう。
では母は?
何故夫を裏切っていたことが判っても、放逐されないのだろう?
そしてふと思う。
男爵の素性がどうしても判らなかった、というエリーゼ様の言葉に。
そんな胡散臭い人をどうしてカミーリア嬢は皆に反対されながらも愛したり、命をかけて子供を産んだのだろう?
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