15 誕生日を祝ったことが無いといったら

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15 誕生日を祝ったことが無いといったら

 アリサも似たことは考えていたらしい。  今更だけど、という言葉を添えて。  そしてその手紙に、今度はびっくりする様なことが書かれていた。 「ペット?」  母の元に、どうやら瓶と共に東洋から少年だか青年だか判らない男が送られてきたのだという。 * 「ペット、ですか」 「人身売買に関しては、まだ確固とした法ができて居ないですからねえ。とは言え道徳的には宜しくない」  オラルフさんは言う。 「ですが、これが向こうの土地の人間だとするとまた話が別なんですね」 「と言うと?」 「本国の子供の売買よりいい加減になりますね。当然ながら」 「まあ違法だ、という雰囲気はあるんだけどね」 「で、ペットって何するんですか」  そう私が尋ねると、二人は顔を見合わせた。  何だか話しにくそうなことなのか。 「あー…… ミュゼットさん。相変わらず男爵はそうそう帰って来ないってアリサさん言ってましたかね」 「え? ええ」   いや、それ以前に母のもとに男爵が訪れること自体あまり無かったんじゃないか。  だからこそ苛立って私を追い出そうとしたのか。  相変わらずその辺りは判らないのだけど。 「何というか…… 女性の元にそういう少年だか青年だかのペットが送り込まれた場合、それはまず、まあ、閨ですね」 「閨」 「夫人は今おいくつですか?」 「私が今十五、六だから…… 三十代であることは確かだと思うけど」  でも私は母の誕生日を知らない。  これが奇妙だ、ということは、エリーゼ様のところで知った。  家族の誕生日を皆知っていて、祝っているということに私は驚いた。  私は祝ったことも祝われたこともない。  それは男爵が私を娘と認めていた時も、その前も。  母は私の誕生日を祝わなかったし、私も母の誕生日も正確な歳も知らない。  そう、エリーゼ様のところで、 「もうじきこの子のお誕生日だから、何をプレゼントしようか考えているの」  そううきうきと言われた時、まず意味がわからなかった。 「誕生日って、生まれた日のことですよね」 「そう。それが?」 「何故プレゼントを?」 「え?」  その時エリーゼ様の表情が露骨に曇った。 「ちょ、ちょっと言っている意味が判らないわ」 「え? だから、誕生日にプレゼントを何故するのか、と」 「いや、それはするものでしょう? ……って、貴女、まさか」  唐突にそこでエリーゼ様の視線が可哀想なものを見る様なものになった。 「お誕生日にお祝いをされない…… の?」 「するんですか?」  使用人達の間で時々何か贈り合っていた…… かもしれない。  でもあの二年は何かと忙しなくて、何かの祝日だったかな、と思った程度だった。  アリサはアリサで、誕生日はそもそも母親の命日だ、ということだったから祝われたことは無かったのだろう。 「大事な人が生まれた日だもの。そういう時にはお祝いをするの。そして欲しがっているものを考えて贈り物をしたり……」  そこまで言って、エリーゼ様の目にふと涙が浮かんでいたのを思い出した。  いい人だ。
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