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18 マリューカ様のサロンへ出向く
それから少しして、タシュケン子爵夫人マリューカ様のところへ出かけた。
そしてまずここで感じたのは「うわあ」だった。
正直、ロルカ子爵邸だけでもびっくりしたのに、その更に上を行く……
だいたい敷地内に幾つかのアトリエがあって、芸術家達を住まわせている時点でもう規模が違う。
離れには彼等のサロンがあって、そこに女主人であるマリューカ様がゲストとして行く、なんていう状態、想像もできなかった。
私が通されたのはその離れの方だった。
応接に通されると、まず手の空いた音楽家がピアノを奏でてくれた。
するとその後歌う人が出たり、「はいじっとして!」と私をスケッチする人も居たり……
そんなひと達が八人くらいやってきた辺りで、マリューカ様がようやくやってきた。
大柄で派手目の彼女は、おそらくは最先端の流行…… よりもう少し先を見据えた感じの服を着て現れた。
そしてその姿を見た一人が、何やら少し考えてつぶやいている。
おそらくこのひとがその服の製作者なのだろう。
「昔のハイロール男爵家…… 皆知っている?」
「俺の師匠が良く知ってるんじゃないかなあ」
スケッチをしていた一人が手を挙げた。
「ああ、そのくらいの世代だな。私の先生も知っているかもしれない」
「そうか。じゃあ皆、それぞれの師匠だの何だのに、ちょっと聞いてもらえないかな」
マリューカ様は軽く煙管をふかしながらそう言った。
「貴女の思し召しなら」
丁重にそんな言い方をして美しく礼をするひとも居た。
「でも何だね、追い出された男爵令嬢ちゃん。何で今の彼奴のことじゃなく、昔のあの一族のことを聞きたいの?」
「その言い方は……」
私は苦笑する。
「間違ってはいないだろう?」
「ちょっとその辺りも今揺らいでまして」
ふむ、とマリューカ様は顎に手をかけた。
「なかなか君もややこしい事情を抱えている様だね」
「も?」
「ここに居る皆、大概家庭だの金銭だのややこしい事情でもってなかなかその才能を生かし切れずにした者ばかりだ。私には才能は無い。が、金銭はある。ので、彼等に投資している」
「投資ですか」
「そう、投資だ。別にそれはわかりやすい成功でもよし。金銭的な恵まれることでもよし。そして私個人を楽しませることだけでもよし」
「そして僕等はそんなマリューカ様に『できれば』応えられたらと思いつつ自身を高めているんだ」
「別に失敗するならするで、私はそれをも見て楽しむからいいんだよ」
「そういう癖の奴も居ますが、自分はそうではないですね」
それぞれがマリューカ様を敬愛しつつ、それでも言われるがままにはなっていない。
面白いなあ、と私は思った。
「まあ何にしても、師匠筋とかに問い合わせて、昔の手紙とかあるかどうか確かめてみるよ、嬢ちゃん」
「ありがとうございます」
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