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21 するりとやってきた爆発犯
ところがその夜。
男爵家の屋敷で爆発が起こった!
しかもその犯人が私達の元に姿を見せたのだ。
私はなかなか眠れないだろうということでアリサのところにやってきていたのだが、そこに「東洋人のペット」の彼本人がするりとやってきた。
私は驚いた。
と言うか、驚くなという方がおかしいだろう。
窓の上から下りてきた。
屋根づたいだったのだろうか?
ともかくその男は何かをかついで下りてきた。
何かを。
その袋の中身。
大きさ。
アリサは何となく予想がついている様だった。
「貴方は――本当に、ペットとしてやってきたの?」
「ペット『も』してましたよ」
そして彼は背負った袋の中から巻いた書類を出し、アリサに手渡した。
「我々は、名を騙るものは許さないんですよ」
嗚呼。
昼間語られた、東の地に広がったハイロール一族の話。
それがここでつながった。
アリサは確認する様に問いかけた。
「一族は――チャイナに根付きもしたのね」
「はい。そしてペット販売ルートと並行して、こういう仕事もしているという訳です。と言っても今回は仕事というよりは、一族の報復ですが」
「報復」
「我々は、とても酔狂であちこちに根付き、そしてその場を楽しんで行く一族。あの様なゲルマンの男に詐称されることなど許されないんですよ」
「それでわざわざ」
つ、と手入れのされた指先で、彼はその書類を指した。
「細かな事情はそれに書いてあります。我々が我々だという証明も。まあ、夫人がペットを夫君に頼まなければ良かったのですがね」
そうだ。
母は。
彼女のことをどうするつもりだったのだろう。
彼女自身はペットが手に入る、ということで注文しただけかもしれない。
ただその代償は大きかったということか。
いや、それとも男爵が独り寝をあれこれ言う妻に対し、面倒だと思って与えたのか。
「お母様は――?」
彼女の部屋も爆破したのだろうか。
火事を起こしたのだろうか。
「ご安心を。安らかで甘い眠りの中で」
甘い香り。
ああ、阿片か。
芸術家達はその話もしていた。
ペットを購入すると、もれなくついてくるのがそれだ、と。
だからこそ面白いが自分は取り寄せたりはしないのだ、と。
刺激的かもしれないが、それに頼る芸術は本物ではない、と言っていた。
だが夢うつつのまま死ぬにはいいだろう、とも。
「そう。ありがとう」
私はそう言うしかなかった。
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