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淳平と寝るようになって、もう二年くらいがたつ。その間、淳平に他に男がいたのかどうか、俺は知らないけど、今男がいないことは知っている。淳平本人が、そう言うからだ。
祐樹だけだよ、と、淳平は言う。いつも、俺を受け入れて喘いでいるときに。それ以外のときには、その種のことはなにも言わないから、俺は淳平の部屋に来るのだと思う。姉の部屋からの帰りや、姉から電話があったときや、姉と食事に行ったときなんかに。
祐樹だけよ、と、昔姉も言った。その頃姉は夜の店で働いていて、その客と寝てもいたことを、俺は知っている。全然なにも、俺だけじゃないじゃん。そう思っても、口には出せなかった。姉がそうやって稼いでくる金で暮らしていたから。
今、姉には夫がいる。夫がいるし、もう、祐樹だけよ、とも言わない。
「……祐樹?」
なに考えてるの、と、淳平が汗ばんだ腕を俺に伸ばした。されるがままに髪を撫でられながら、俺は首を横に振る。なにも考えてない、と、示すために。
淳平とのセックスは、いつも気持ちがいい。いつでも、ちゃんと快楽がある。それで俺は、抜け殻みたいになった自分の身体を満たそうとする。深い快楽が欲しかった。姉の寝起きの白い顔をかき消すことができるくらいの。
セックスが終わると、淳平は俺の隣に横たわり、ひょいと顔を覗き込んできた。
「今日も、元気ないね。」
「……そんなこと、ない。」
「学校では、元気なのにね。」
「……そんなことも、ない。」
そんなことは、多分あった。学校には、姉の気配がないから。子どもの頃から成績が良かった姉なら、もっといいランクの大学にすすめたのだろうけど、姉は高校を中退して働き始めた。姉と、大学という場所には、本当に縁がない。だからだろうか、大学では俺は、息がしやすかった。でも、こういう日に学校に行こうとは思えない。なぜだろうか。学び舎を汚してはいけない、だなんてことを、考えているわけでもないのだけれど。
「元気がないときに、俺のところに来るんでしょ。」
淳平が、わずかに唇を笑わせる。
「そういうとこ、期待しちゃうよね。全然脈なしって、分かってるんだけどさ。」
そして淳平は、俺の返事を待たずにベッドから立ち、シャワールームに消えていく。残された俺は、腹ばいになってうとうとする。手持無沙汰でも、煙草を吸いたいという気は起きない。俺が煙草を吸うのは、姉の家でだけだ。
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