雨上がりの恋

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雨上がりの恋

彼氏に振られ追い打ちをかけるように 降り出した雨に泣きたくなった。 傘は持っていないし、走る余裕もない。 「なんで、私ばかりいつもこんな目に遭うの?」 服越しに雨の冷たさが伝わってくる。 今の私はきっと惨めな姿になっていることだろう。 髪も服もびしょ濡れで立ち尽くしている女。 それが今の私だ。 なんで、私を裏切ったの、大和。 なんで、浮気なんかしたの。 「……大和の…大和のバカヤローーッ!!!!!」 思いっきり叫ぶ。 行き交う人々は突然大声を 出した私をジロジロと見る。 でも、どうだっていい。 どうせ他人なんだから。 他人。大和は他人? 私の一番大切な人だった 大和は結局他人なんだ。 涙が込み上げて嗚咽を漏らす。 「大丈夫ですか?」 傘を差し伸べてきた手はゴツゴツ していて大きかった。 「す、すみません、邪魔でしたよね」 そう言って涙を拭い、相手の顔を見る。 優しげな面持ちの爽やかイケメン。 さっきまで泣いていたことも忘れて 見惚れてしまっていた。 「いえ、そうじゃなくて…僕はただあなたが心配で」 「馬鹿みたいですよね、 失恋ぐらいで雨も気にせず泣いてるなんて」 自虐的に笑うつもりだったのに涙が出てきた。 「馬鹿なんかじゃないですよ」 優しく笑う男性。 私なんかに気を遣ってもらって…。 「風邪ひいちゃいますよ、こんな雨の中」 男性は着ていたスーツを私の肩に掛けてくれた。 「あ、ありがとうございます…」 「それと、これはプレゼントです。 元気出してくださいね、雛子さん」 えっ? 「どうして、私の名前を…」 男性は、鞄から 熊のストラップを取り出し私の手の上に載せた。 「えっ? これ…」 「僕のお守りみたいなものです。 学生時代に雛子さんが僕にくれた ストラップと色違いなんですよ」 「ま、まさか、高校の時、クラスが一緒だった 野間大希(たいき)くん?!」 彼は、野間くんはふふふと笑った。 信じられない。ここで知り合いに会うなんて。 「まさか、このストラップ、わざわざ 探して買ってきてくれたの?」 「…こないだ、駅で雛子さんを見かけたんです。 その時声を掛けようと思ったんですが 元気がなさそうだったので…。 また会えるかわからないけど、 同じストラップを探してみたんです。 …会えて良かった…」 優しく笑う野間くんに胸がムズムズする。 どうして、あなたはそんなに優しいの。 突然、雲の隙間から光が差し込んできて さっきまで降っていた雨が止んだ。 「あ、雨が止みましたね、 そうだ、僕のハンカチ使いますか? タオルの方が良かったけど、あいにくなくて…」 紺色のハンカチを差し出してくる野間くん。 その顔が輝いているような錯覚を覚える。 あなたはいつもそうだったね。 陰でクラスを支えてた。 泣いている子にもハンカチを差し出してた。 「ありがとう。野間くん。 …ねぇ、また会える?」 気づいたらそう言っていた。 自分でも気付かぬうちに この恋は始まっていたのだと思う。 恋に落ちる三秒前、二秒前、一秒前。 野間くんは目を見開いて、 それからとても優しく笑った。 「はい」 (終わり)
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