雨上がりの白いタクシー

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    「そういえば、知ってるかい? 『雨が()む』と『雨が上がる』の違い」 「えっ、同じじゃないんですか」 「うん。違いなんて気にせず使うやつも多いけど……」  後部座席では、岡田が山下くんに話しかけている。  ちょっと座席の配置をミスったかもしれない。  降りる際の支払いのことを考えて、そこに一年生を座らせるべきではないだろうという理由で、私が助手席。残り三人が後部座席だった。  てっきり岡田と阿部がくっ付いて座るかと思いきや、彼らは山下くんを真ん中にしている。先輩二人に挟まれる格好では、山下くんも少し息が詰まるのではないだろうか。  実際、特に興味もなさそうな岡田の話に対して、いかにも「仕方なく」といった感じで合いの手を入れている。 「……『雨が()む』の方は、文字通り止まること。だから一時的な場合もあって、また降り始める場合もあるけど『雨が上がる』は違う。『上がる』っていうのは完了だから、雨降りは完全に終わって、その日はもう降らないのさ」 「へえ、なるほど。じゃあ、こうしてまた降ってきたのだから、さっきの状態は『雨が上がった』じゃなく『雨が()んだ』の方だったんですね」 「そう、そういうこと。覚えておくと、何かの足しになるかもしれないぜ! だから……」  いやいや、そんな蘊蓄(うんちく)を披露する機会なんて滅多にないだろう。  私は心の中でツッコミを入れるだけで、あえて二人の会話には口を挟まなかった。  とはいえ、そのままにしておくのは、少し山下くんが可哀想な気もする。一応は助け舟のつもりで、岡田の話を遮るように、わざと大きな声を上げた。 「ああ、運転手さん。次の交差点です。あの信号を越えたあたりで、停まってください」  もちろんタクシーの運転手はプロだ。最初に居酒屋の名前は告げてあるし、改めて停車位置の指示なんて必要ないだろうけれど。    
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