雨上がりの白いタクシー

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     口数の少ない阿部にしては、少し珍しい態度かもしれない。ふと見れば、彼は頬を赤らめていた。  しかし、まだ酔いが回るには早すぎる。ならば、これは……。  今まで私が気づかなかっただけで、もしかすると阿部は、前々から小島さんに気があるのだろうか。  そう考えると妙な好奇心が生まれて、私も会話に加わってみる。 「小島さんといえば……。ちょうど乗ってきたタクシーで追い抜いたよな? ほら、岡田が『また雨が降ってきた』とか言い出した時だ」  阿部も「うん、うん」と頷いている。歩いていた小島さんたちの姿をタクシーの中から見かけたのは、私だけではなかったらしい。 「そう、その話だ。小島さんの方でも、自分たちを抜いてったタクシーに、俺たちが乗ってるのが見えたらしくてさ。『タクシーで来るなんて、ずいぶん豪勢じゃないの』って冗談っぽく言うから、俺は真面目に『おかげで濡れずに済んだ』とか『ちょうど雨もまた降ってきたし、タクシーで良かった』みたいに返したんだが……」  岡田の顔に浮かぶ困惑の色が、さらに深まる。 「……なんだか話が食い違うんだぜ。小島さんが言うには、雨はあの時、降ってなかった、って」 「降っていなかった? だけど……」  聞き返す私の言葉を、岡田は首を振ることで遮った。 「彼女たちは大学からここまで、雨には全く降られなかった。だから徒歩でも問題なかった。……っていうのが、小島さんの認識らしい。でも、それって変だろ? 車の外で雨が降ってるの、俺たち、タクシーの中から見たよな?」 「ああ。見ただけじゃなく、フロントガラスを叩く雨音も聞こえたし、運転手もワイパーを動かして……」  岡田に同意する意味で、私はそう言いかけたのだが……。  ここで一つの事実を思い出し、ハッとする。  そういえば、タクシーの中から見かけた小島さんたちは、傘を差さずに歩いていたではないか。  あの時の私は「まだ雨が降り始めたばかり」と解釈して、勝手に納得していた。しかし実際は違っていて、小島さんたちは「雨なんて降っていない」という認識だったからこそ、傘を差していなかったのか……!    
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