雨上がりの白いタクシー

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     改めて、阿部の方に注意を向けると……。  彼は体をぶるぶると震わせて、大きく目を見開いていた。  頬の紅潮も先ほどより激しくなっている。もう「頬の紅潮」どころの話ではなく、顔全体が真っ赤になっていた。 「雨上がりの白いタクシー……? 何じゃそりゃ……?」 「うん、子供の頃に聞いた怖い話で……。都市伝説とか怪談の一種かな。いや『都市伝説』って言ったら大袈裟かもしれないけど……」  不思議そうに聞き返す岡田に対して、阿部が説明する。 「……雨が上がったタイミングで発生する怪異でね。外は雨が上がったのに、そのタクシーの中では、また降り出すんだ」 「密閉された車内で雨に降られたら、びしょびしょに濡れるどころか、溜まった水に()かって大変だろ。首まで浸水したら、溺れちまうぞ」  岡田がツッコミを入れるが、阿部が言っているのは、そういう意味ではないだろう。  ちょうど小島さんや私たちの状況に類似しているからこそ、阿部はこの話を持ち出したに違いない。ならば「外では上がっているのに、タクシーの中では雨」というのは「本当は晴れているのに、タクシーの中から見たり聞いたりすると、外では降っているように感じられる」という意味のはず。  ツッコミを入れた岡田自身、その点、頭では理解していたようだ。私だけでなく阿部もそう思ったらしく、岡田のツッコミは無視して、話を続けていた。 「あと、その怪談によればタクシーは白色で、でも乗車した客たちは赤とか青とか違う色だと思ってしまう、って……」 「なるほど。それも俺たちの件と合致するな。でも、そんな怪談、俺は聞いたことないぞ。たった今ここで、でっち上げたんじゃないだろうなあ?」 「そんなわけないだろ! だけど……」  岡田の横槍を強く否定してから、阿部は首を縦に振る。 「……うん、ごくごくローカルな怪談だったみたい。中学の友達も知らなかったから、僕の小学校限定だったかも」 「ああ、子供向けの怪談の一種か。『トイレの花子さん』みたいな……。でもその手の有名な怪談と違って、阿部の『雨上がりの白いタクシー』、ちっとも怖くないな」  岡田は笑い飛ばすような口調だが、阿部の態度は変わらなかった。 「いや、怖いのはここからだよ。さっき『乗車した客たちは赤とか青とか違う色だと思ってしまう』って言ったけど……」    
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