一日

1/1
前へ
/15ページ
次へ

一日

 香織と同棲を初めてから二年が経った。僕はキッチンで朝食を作っていた。ほうれん草と玉ねぎを切って沸騰した鍋に入れる。味噌を溶かしてみそ汁ができた。炊いていたお米を茶碗によそい、ネギを切って鰹節と共に納豆の上に載せた。朝食ができ終わると、寝室から目覚ましの音がした。香織はパジャマを着ていて、目を擦りながら出てきた。 「おはよう」と彼女は言った。 「おはよう。ご飯できているよ」  僕は作家で香織は司法書士だ。僕が司法書士の研修を受けている時、同期として香織と出会った。当時から彼女は明るくて優しい人だと思っていた。  二人で向き合って朝食を食べていると窓の外から鳥の鳴き声がしている。香織は納豆を載せたご飯を丁寧に箸で食べていた。 「今日は遅くなるの?」と僕は聞いた。 「早く終わると思う。帰りにどこかに行く?」 「駅前のレストランで食事をしようよ」  香織は朝食を食べ終えるとスーツを着て、部屋を後にした。僕は二人分の食器を洗っていた。司法書士の仕事を辞めてから一年が経った。今は作家として、日々、家で取材をして、小説を書いている。  僕は皿を洗い終えると、洗濯を始めた。洗濯機を回している間に、部屋に戻り、資料の確認をする。今、書いている小説は戦争の内容だったので、当時の資料を編集者に渡されていた。僕は家事をしながらそうやって小説を書いていた。  洗濯を終えると、部屋の掃除をした。窓の外は晴れていて、心地のよい風が吹き込んでくる。僕はぼんやりと昔のことを思い出しながら、掃除をしていた。  部屋に戻り、小説の執筆をする。文字は勝手に頭から出てくる。とにかく量を書くことを意識していた。後で編集の段階で削るところはあると思うが、できるだけ長くしようと考えていた。  昼になると、キッチンでカップ麺にお湯を注いだ。昼は簡単な食事にすることが多い。香織がいる朝と夜で必要な栄養素を取っているみたいだった。  コーヒーを淹れて、リビングのテーブルに座っていると、穏やかな気持ちになる。作家になってから一人で過ごすことが増えたと思う。時々僕の元にもインタビューの仕事が来ることがある。そういう時は新鮮な気持ちになった。家で過ごすことが増えたせいか、最近運動不足のような気がする。  僕は昼食を食べた後、近くの公園に出かけることにした。靴を履いて外に出ると強い日差しを感じる。公園は歩いて家から十分程のところにあった。僕は住宅地の中を歩いて行った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加